05.彼のジレンマ -ステップ・バイ・ステップ-

恋人らしくない二人が少し恋人らしく(by はる 様)

「なぁ、クリスマス、どうするん?」

片肘をついた茜が、サンドイッチを齧りつつ唇の端を上げる。その斜め前に座った百合子が、水筒から注いでいたお茶をこぼした。

「え、なになにその反応。めっちゃ気になるやん。もしかして……」
「……う、うちの話はええやん! それより和葉らやろ! なんせ――」

付き合いだして初めてのクリスマスやもんな?

キレイにそうハモった二人が、にんまりとこちらに目を向ける。「なぁ、どうなんよ」

「……べつに。ふつう」
「普通って? まさか何も話してないん?」

信じられない、といった表情で詰め寄ってくる二人に、頷いてみせる。
期待なんかしていなかった。ただの幼馴染から、一応「恋人」と呼ばれる関係に変わったはずではあるけれど、相手は、あの平次なのだ。どうせ、クリスマスが来週に迫っていることにすら気付いていないだろう。
ついついフォークを握る手に力が籠ってしまい、勢いに任せてお弁当の卵焼きを突き刺した。

「大体、この間の約束だって――」
「お、もーらい」

突然割り込んできた浅黒い手がアタシの手ごとフォークを攫う。「え……あ、ちょお!」

「アタシの卵焼き! 何すんねん平次!!」
「ええやんけ1個くらい。ケチケチすんなや」

あっという間に卵焼きを飲み込んだその顔は、どこまでもふてぶてしい。

「これもお前のためや。卵焼き1個分やけど、それ以上足が太なるの防いだってんで?」
「な! 誰の足が太いって!?」

意味ありげにアタシの足に視線を向けてから、満足気に立ち去って行く。「あほー!!」
腹立ち紛れに今度はウインナーにフォークを向けると、呆れたような顔の二人と目が合った。

「なぁ。アンタらって、ほんまに付き合い始めたんよね?」
「……ほんまやもん」
「学校やから、やろ? 二人きりの時は、ちゃうんよね?」

おそるおそる、といった様子で百合子が口にしたその言葉に、首を振ることしかできないのが悔しい。「……ずっとこんな感じやで」
むしろ、二人きりでいる時の方がひどい。そう思ったが、口には出さない。二人で部屋にいても、別々のことをしていることの方が多く、会話もあまりなかった。

付き合い始めてすぐの時は、平次がアタシを「好き」だという、その事実だけで満足だった。
たった一度だけ、でも、確かに平次は言ったのだ。アタシのことを「好き」だと。
けれど、最近は少し不安になる。

アタシたちは、恋人と呼べるのだろうか。
ただの幼馴染だったあの頃と、何か変わったのだろうか。

「……一回、言い返すの我慢してみたら?」
「へ?」
「和葉が言い返さなければ、ちょっとは違う方向に行くんちゃう? 甘えてみるとか」
「あ、甘える!? アタシが、あの平次に……!?」

ムリムリムリ! そんなアタシの否定の声をきれいに無視した茜が、百合子を見やる。

「せんぱい、この初心者さんに教えたって? どうやったら甘い雰囲気になれますか」
「う~ん。ぴとってくっついてみたり、とか?」
「え、百合子、そんなことしてんの!?」

ぽっと、頬を紅くした百合子が、えへへ、と笑う。「そうすると、ぎゅっとしてくれるよ」
一瞬、そんなことをする平次の姿が脳裏に浮かんで、頭がくらくらした。

――平次がするわけないけどな。

自分の中に生まれた甘い期待に気付かないふりをして、そっと、お弁当箱に蓋をした。

2 thoughts on “05.彼のジレンマ -ステップ・バイ・ステップ-

  1. 恋人らしい二人を見ると、キュンキュンするのと同時になぜだか少しさみしく(切なく)なっちゃいました。
    大人っぽくなっちゃって…いつまでも高校生じゃないんだな…と。
    それ以上に萌えが上回ってますが♥
    どの作品も絶妙なさじ加減が最高です。ありがとうございます!

    1. コメントありがとうございます!
      わたしもどちらかというと今のじれじれを楽しむタイプなので、お気持ちわかります(*´ω`)
      少しずつ、恋人らしくステップアップしていく二人を眺めてるのも楽しいですが✨
      二人が両想いになったらどんな感じになるんでしょうね~
      しばらくは幼馴染に毛が生えた程度なのか、それとも一気に恋人らしくなるのか…考えるだけでにやにやしちゃいます。

      あぁ…!他の作品も楽しんでくださったのならとてもうれしいです( ;∀;)
      コメントありがとうございました!!

コメントする